なぜ変な形のキーボードを 好んで使うのか?

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変な形のキーボード

あなたは普段、どんなキーボードを使っているか、意識していますか?

日本で普及している標準的なキーボードは図 1 のような形状です。

図1 標準的な日本語キーボード 例:Filco Majestouch
図1 標準的な日本語キーボード 例:Filco Majestouch

キーボードに関して、 2023 年に不思議なことがおきました。

それは Keyball という変な形のキーボード がたいへん流行したことです。 そのキーボードの形状を図 2 に示します。

図2 変な形の自作キーボード 例:Keyball 61
図2 変な形の自作キーボード 例:Keyball 61

Keyball は、図1 の標準的なキーボードと大きくかけ離れていますね。

これはいわゆる “自作キーボード” に分類されるものです。
自作キーボードは、部品一式を購入し、自分ではんだ付けをして組み立てるものです。

なぜこのような変な形のキーボードを、わざわざ手作業で組み立てて使う のでしょうか。

その答えは「それだけのメリットがある」ためです。

なぜ変な形のキーボードを 好んで使うのか?

標準的なキーボードに対し、 Keyball が際立っている特徴は次です。

  • 合理的なキー配置である
  • 左右分割型である
  • 親指付近に複数のキーを配置している
  • トラックボールを搭載できる

図2 に示す Keyball のレイアウトは、ヘンテコに見えますが、実はとても合理的な配置となっています。

キーボードを操作する運指を比較しましょう。

図 3 は、標準的な日本語キーボードを操作時の運指です。

図3 標準的な日本語キーボード操作の運指
図3 標準的な日本語キーボード操作の運指

ナナメ方向に手を動かしていますね。 また、右ナナメに伸びる矢印は Enter キー、 Backspace キーの操作を示しています。

日本語入力では文字変換を確定するため、必然的に Enter キー操作が多くなります。
キーボードを扱うときに意識を向けると、 スパーン、スパーン と右手を、大きく何度も動かしていることが実感できますよ。

これに対し、 図 4 は、 Keyball 61 操作時の運指です。

図4 Keyball 61 操作の運指
図4 Keyball 61 操作の運指

図 3 と比べ、図 4 は上下移動のみのシンプルな軌道です。

上下運動のみとなっているのは、キーに左右ズレのないためです。
また Keyball は Enter キー、 Backspace キーを親指付近に配置 しているため、手を右ナナメに動かす必要もありません。

手の動きを見直したことで素早くタイピングでき、運動量が減って疲れにくくなります。
キーボードを操作する頻度が高い人ほど、塵が積もって山となり、レイアウトを見直す効果を実感できます。


なお Keyball のようなキーレイアウトを カラムスタッカード といいます。

カラムスタッカードは山形のカーブを描きますが、この山形は “手の指の長さに沿った形状” です。
一般的なキーボードの形状からはかけ離れていますが、 タイピングの合理性 を追求すると、だいたいこのカラムスタッカードにたどり着きます。

自作キーボードでは、このカラムスタッカードを採用した機種が数多くあります。

Keyball はさらに トラックボール を搭載したことで人気を博しました。
(トラックボールとは、マウスを動かすかわりに、ボールを転がして使うタイプのポインティングデバイスです)

さて、Keyball 61 は 図 5 でいうと右下マルの部分にトラックボールを装備します。
これが絶妙な位置なのです。

図5 変な形の自作キーボード 例:Keyball 61
図5 変な形の自作キーボード 例:Keyball 61

キーボードに手を載せたまま親指をクイックイッとするだけでマウス操作ができます。
つまり キーボードからずっと手を離さなくて良く、とてもラク なのです。

ヒットするのが納得できる、とても良い自作キーボードです。

使いこなせるかどうかは別問題

Keyball や、カラムスタッカードは自作キーボード系でたいへん人気があります。

しかし注意が必要です。
それは すぐに使いこなせるとイージーに考えてはいけない ことです。

通常のキーボードと形状が大きく異なるために、初見ではまったく使いこなせないと考えたほうが良いでしょう。
運指がおおきく違い、慣れるまでに時間を要します。

図 6 は Keyball 61 を、標準的なキーボード操作時の運指で扱おうとするイメージです。

図 6 Keyball 61 を、標準的なキーボード操作時の運指で扱おうとする
図 6 Keyball 61 を、標準的なキーボード操作時の運指で扱おうとする

指の動きとキーの配置があっていません。
“いつもの場所に同じキー” がないため、タイプミスが多発します。

タイピングはモタモタで、ミスを連発してイライラします。
これって思いのほか 強いストレス になります。


新しいキーボードを使いこすまでには 時間的、精神的コスト がかかります。
これが “キーボードの移行コスト” です。

私は、カラムスタッカードのキーボードを愛用していて、そのメリットを享受しています。
しかし、完全に使いこなすまでには結構な時間がかかりました。

自作キーボードで どうしても慣れなかった というワードは何度も目にします。 ただ慣れるまで継続できなかっただけで、いつか必ず使いこなせます。

ということで「こんなのつかえない」とか「騙された」などと思わずに、「少しずつ練習しよう」という気持ちで変な形のキーボードを使ってもらえたらいいなと思っています。


私は、自作キーボードがもっと普及してほしく、入門書も書きました。
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